「かえるの王さま」
ある国の王女が、お気に入りの金の毬(まり)をうっかり井戸の底に落としてしまいました。
すると中から「毬を返してあげる代わりに、カエルの僕と友達になっておくれ。
食事のときには僕を隣に座らせて同じお皿から食べさせ、夜には君と同じベッドで眠らせておくれ」
という要求の声がしました。
王女はカエルが苦手だったので気味が悪くなり、
「いいわ。 一緒に食べて一緒に寝てあげる」と要求をのむふりをして毬を返してもらい、
走ってお城へ逃げ帰りました。
翌日の夕食のとき、王女は浮かない顔でした。
王様はその様子を不審に思っていました。
そのとき、あのカエルが突如テーブルに姿を現し、王女に「約束を守っておくれ」と迫ったのです。
王女は泣きながら、同席しているお父様(王)に事情を説明しましたが、
お父様はカエルとの約束を守るよう愛娘に命じます。
王女は泣く泣くカエルと一緒のお皿から食事をとりました。
カエルと同じベッドで眠るのをどうしても避けたい王女は、お父様にそのことを必死で懇願しますが、
まったく聞き入れられません。
ついに王女は、気味の悪いカエルとともに寝室へ入ることになってしまいます。
王女はぬるぬるしたカエルと同じベッドに入ることだけは、
どうしても受け入れられませんでした。
さっさとひとりでふとんにもぐりこみますが、カエルは「ちゃんと約束を守ってくれ。
さもないと、お父上に言いつけるぞ」と怒り始めます。
王女はこのカエルの要求に腹を立て、
「お前なんて!」とつまみあげ壁に叩きつけてしまいました。
するとカエルはその衝撃で、立派な人間の王子様の姿に変身したのです。
あっけにとられている王女の前でひざまずいた王子様は、数々の非礼を詫びました。
なんとこの王子、じつは隣国の王子で、悪い魔物によりカエルの姿にされていただけだったのです。
仲直りをした二人は親密になり、ついに婚約します。
それを知り、隣国から王子の忠実な僕(しもべ)ハインリヒが馬車で迎えにくることになりました。
このハインリヒ、王子がカエルになってしまった折、ショックのあまり胸が張り裂けんばかりに悲しみ、
実際に胸が張り裂けてしまわないように鉄の輪を三本も胴に巻き付けていました。
しかし、王女をともなって馬車で帰国する際には、ハインリヒの胸は喜びのあまり張り裂けんばかりに膨らんで、
三本もの鉄の輪はメリメリと順番に割れて外れていきました。
馬を鞭打ちながら涙ながらに喜びの歌を歌うハイリンヒを、王女と王子はうれしそうに眺めたのでした。