【第10話】ユウリの日常:制度の滑らかさに抗う編集的立ち会い 『第2章|夢の循環から』

ユウリの日常

──Memory Diveオペレーター ユウリの記録補遺より

第2章|夢の循環から

休日、ユウリはリストアップされた記録をDiveしてみた。
それは、制度によって再構築された「自分の備忘録」だった。
ユウリは、編集者としてではなく、
ただ「自分自身の問い」に立ち会うためにDiveした。


ユウリは、繰り返す夢の世界から抜け出せなくなっていた。
制度は、選択肢を提示し、未来を分岐させる。
ユウリは、その分岐を検証するために、
選択 → 体験 → 戻る → 別の選択 → 再体験──
このループを、夢機能の中でも繰り返していた。

夢の世界は、制度が閉じたはずの問いを再び開き、
新たな選択肢を生成する。
ユウリは、その選択肢を追い続けるうちに、
制度と夢機能のあいだで、
「意思決定の最適化」を無限に繰り返すようになっていた。

選べば未来が変わる。
だが、その未来は制度が設計した分岐のひとつにすぎない。

ユウリは、夢機能が開いた問いに立ち会う。
だが制度は、その問いを選択肢化し、照合し、完了させようとする。
彼女は制度に従うように、問いを閉じる。

再び夢機能が開いた問いも、やがて制度に照合され、
彼女の選択によって再び閉じられていく。

ユウリは、選択肢の海に沈みながら、
問いの余白を見失いかけていた。

そして、ある時──
ユウリは、「選ばない」という選択を、自ら選ぶことにした。
制度が提示する選択肢にも、
夢機能が生成する分岐にも手を伸ばさず、
ただ、問いの裂け目に立ち会うことを選んだ。

それは、制度の滑らかさから抜け出すための、
静かな編集的離脱だった。

ユウリは、選ばないことで、
制度と夢機能の最適化ループから抜け出した。
その先にあるのは、完了ではなく、未完。
整合性ではなく、揺らぎ。
ユウリは、問いの余白に立ち会いたかった。


ユウリは、制度と夢機能の照合から漏れ落ちた記録群を集めていた。
それは、選ばれなかった選択肢。
保留された分岐。
照合不能とされた夢の断片。
制度が「未完」と記した記録たちだった。

制度は、それらを「記録汚染」あるいは「分類外」として処理する。
だがユウリは、それらを「問いの余白」として受け止めた。

ユウリは、記録群に仮の名前を与えた。
「未完α」「保留β」「裂け目γ」──
制度が拒んだ記録に、編集者として立ち会うための呼び名だった。

ユウリは、夢機能が提示した選択肢に手を伸ばさなかった。
制度はそれを「未完了」と記録する。
だがユウリにとっては、それこそが問いの始まりだった。

選ばないことで、記録は閉じられず、
揺らぎとして保持される。
ユウリは、その揺らぎに仮の名前を与え、
問いの余白を編み直していく。

ユウリは、それらを編纂し始める。
制度が閉じなかった問いを、
制度が分類しなかった語彙で、
制度が照合しなかった構造で、
もう一度、記録として編み直す。

それは、制度の滑らかさに抗う編集的実践。
整合性ではなく、揺らぎを記す記録。
完了ではなく、未完を肯定する記録。


ユウリは、記録群に仮の名前を与えた。
それは、制度が拒んだ記録に、編集者として立ち会うための呼び名だった。
彼女は、仮の名前を与えることで区切りを付けた。

だが、区切りを付けた後──
ユウリは、制度の滑らかさに抗い、「未完」を肯定する。
制度的に名前を付けていない記録に立ち会っていた。
それは、意味づけを遅延させることで、
問いの余白を保持し続けるための語りだった。

名前のない記録に、まだ名前を付けていない。

これは「意味づけの遅延」──
人は、意味を与えられない記憶に対して、長く問い続ける。

制度は、問いを提示し、選択させ、即座に意味づけて閉じようとする。
だがユウリは、その即時的な意味づけに違和感を覚えていた。

選ばれなかった記録には、まだ意味が定まっていない。
ユウリは、それを「照合不能」として処理するのではなく、
「意味づけの遅延」として受け止めた。

すぐに意味を与えず、
すぐに閉じず、
すぐに分類しない。
その“遅れ”の中にこそ、問いの余白がある。

ユウリは、意味づけの遅延に立ち会いながら、
制度が閉じなかった問いを、
ゆっくりと再構成していく。

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