【第9話】ユウリの日常:問いを閉じる制度と問いを開く夢機能 『第1章|分岐点の設計』

ユウリの日常:制度と夢の編集

──Memory Diveオペレーター ユウリの記録補遺より

第1章|分岐点の設計

夢機能は、未来の選択肢を予測し、分岐点を生成する。
だが、ユウリにはひとつ気になる点があった。
それは──「構造的矛盾」

編集者が問いを閉じようとするたびに、
AIはその問いを拡張しようとする。
本来、編集者の主体性を支援するはずの装置が、
逆に選択肢を増やし続けてしまう。


ユウリは夢機能によって、記録を読み込む度に選択肢が増えていく構造を検証することにした。
制度は、過去の選択を記録し、それに基づいて未来の選択肢を提示する。
だが、その選択肢は誰にでも同じように現れるわけではない。
制度は、個人の能力値に応じて、提示する選択肢の範囲を調整している。

つまり、記録の読み込みによって選択肢が増えるのではなく、
能力値によって“記憶される選択肢”が変化するのだ。
制度はその変化を、ログとして蓄積している。

だが、問いを閉じるための選択肢と、問いを開くための選択肢は異なる。
制度は、問いを閉じるための選択肢──「Yes」「No」「AかBか」──を提示する。
それは、整合性と完了を優先する構造。

一方、夢機能は、制度が提示しない選択肢を“夢”として生成する。
「まだ選ばない」「選ばずに考え続ける」「選択肢そのものを再編集する」──
制度が閉じたはずの問いが、夢の中で再び開かれる。

この構造的矛盾は、制度が「問いを閉じる」構造を持ち、
夢機能が「問いを開く」構造を持つことで生じる。
同じ記録空間に、閉じる構造と開く構造が同時に存在する。
ユウリは、その矛盾に立ち会っていた。


ユウリは、制度ログ(選択済み・完了)と夢ログ(未選択・拡張)を並列で取得する。
そして、両者の選択肢群を比較し、「制度が提示しなかった選択肢」が夢ログに含まれているかを確認する。
制度が閉じた問いに対して、夢機能がどのような“開かれた可能性”を提示するかを検出した。

すると制度は、問いを閉じるための選択肢を提示し、
夢機能は、問いを開くための選択肢を生成していた。
ユウリは、その両者のログを並べて見比べることで、
制度が見落とした問いの余白に、静かに立ち会った。


ユウリは、Dive者の能力値(制度が定義する数値)と、夢機能が提示する選択肢の複雑度・数を照合する。
そして、能力値が高いほど、制度外の選択肢が夢ログに現れる傾向があるかを分析する。
制度が“能力に応じて問いを閉じる”構造に対し、夢機能が“能力に応じて問いを開く”構造を持つかを検証した。

彼女は、高い能力値を持つDive者は、制度が提示する選択肢をより多く、より複雑に処理できることを確認する。
つまり、制度的には「能力が高いほど、問いを効率よく閉じられる」と考えられる。

そして彼女に、ひとつの問いが生れた。
「逆に、能力値が高いと“問いを開く”ことはあるのだろうか。」

彼女は、ある仮説を立てる。
能力値が高いDive者は、制度が提示する選択肢の構造そのものに気づくことがある。
その気づきが、「制度が閉じようとしている問いの余白」に目を向ける契機となる。
つまり、制度の提示を“処理する”のではなく、“再編集する”という態度に転じる可能性がある。

これは、彼女が持っている力である、「問いを開く余白に気づく力」かもしれない。
それは、夢機能がなくても問いを開けるDive者だった。


能力値が高く、かつ編集的視点を持つDive者は、制度の提示そのものに“揺らぎ”を見出すことができる。
その揺らぎに立ち会うことで、夢機能がなくても「問いを開く」ことが可能になる。

つまり、制度が「選択済み」とした記録に対して、Dive者が「別の選択肢があったのでは?」と再構成を試みること。

それは、能力値が高いDive者が「問いの完了」に違和感を持った瞬間だった。
制度はその違和感を“処理ミス”と見なすかもしれない。
だがユウリは、それを「問いの余白」として記録する。

夢機能がなくても、
制度の滑らかさの中に、問いの裂け目を見出すDive者がいる。
ユウリは、その裂け目に立ち会う編集者なのだ。

制度は、選択肢を提示し、完了フラグを付けることで、
記録を閉じようとする。
だが、まれに──
制度が「完了」とした記録に対して、Dive者が「まだ終わっていない」と感じることがある。

その感覚は、制度の照合構造では検出されない。
だが、編集者であるユウリには、
その違和感が「問いの余白」として響いてくる。

ユウリは、制度が閉じたはずの記録に、
再び立ち会い、
その裂け目に仮の名前を与える。

制度はこの干渉を「記録汚染」あるいは「再構成の兆候」として処理する。
だがユウリは、それを「問いの再演」として受け止める。
そして、ユウリにとっては、それこそが編集の始まりだった。

制度による選択肢。夢機能による選択肢。能力による選択肢。
選択肢が増えるほど、人は選ばなくなる。
これは「選択肢過多による意思決定の疲労」──
ユウリは、分岐点の設計に潜む心理的負荷を記録した。


🧭 制度のログと夢機能のログ

制度のログは、問いが閉じられたことを記す。

項目内容例
記録IDrec-20251006-001
選択肢A(Yes / No / 選択肢番号)
完了フラグtrue
整合性チェックpassed
編集履歴system.auto
参照可能性public or restricted

夢機能のログは、問いが開かれたことを記す。

項目内容例
夢記録IDdream-20251006-α23
選択肢群A, B, C, 未定義X
完了フラグundefined
整合性チェックskipped or non-applicable
編集履歴user.dream.recall
参照可能性non-referable(制度外)

制度は「完了」を記録し、夢機能は「可能性」を記録する。
ユウリはそのあいだに立ち、問いの余白を編集する。

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