平均値のキャリア診断と、視点を変える気づきのはじまり

この連載について
空き家や不用品の片づけを通して「暮らしを整える」ことに向き合ってきた筆者が、
次に見つけた“片づいていないもの”──それは、自分の働き方と役割でした。
このシリーズでは、定年退職してからではなく、
「会社にいながらも“その先”に気づき始めた50代の視点」から、
これまでの働き方と、これからの組み直しについて綴っています。
🧭 シリーズ一覧はこちら → セカンドキャリアを組み直す50代の記録
「今、何されてるんですか?」という問いに詰まった
「今は、何をされてるんですか?」
久しぶりに会った知人にそう聞かれて、返事に詰まった。
会社を辞める前なら、「〇〇部の開発担当です」と自然に出てきた言葉。
でもいまは、それに代わる一言が見つからない。
副業はしている。でも、正式な肩書きではない。
ましてや「自由業です」と答えるには、まだ自分でもしっくりきていない。
「ちょっと今は……いろいろやってます」
あいまいな言葉で笑ってごまかしながら、心の中で自分に問い返していた。
「自分って、今、何者なんだろう?」
“名刺のない日々”が始まって、数週間が過ぎたころ。
なんとなく、肩書きの代わりになる何かを探したくなって、
ハローワークのキャリア相談に申し込んだ。
やったことは、過去の職務経験を整理して、履歴書を作る作業だった。
それと合わせて、いくつかの項目に答えるキャリア診断テストを受けた。
「興味関心の傾向を知りましょう」と出されたのは、
【R】現実的 /【I】研究的 /【E】企業的 ——この3つが、自分に当てはまるという診断だった。
「まぁ、たしかにそうかもしれないな」と思った。
整備、開発、知財──一通りの職場を経験してきたことにも、納得はあった。
でも、そのあとだった。
「あなたが大事にしたい価値観はどれですか?」という項目で出た結果。
・専門志向
・経営管理志向
・自律志向
・企業家志向
・生活重視志向
これら5つすべてが、「5点中3点」。
つまり、どれも平均。どれも突出していない。
相談員の方が、「器用なタイプですね」と言ってくれたけれど、
正直、その診断結果に私は少し戸惑った。
「私はいったい、何を大事にしたいと思ってるんだろう?」
「どの方向が、自分にとって“強み”と言えるんだろう?」
再就職先を探すには、“自分の希望”が必要だった。
でも、その希望が、うまく言語化できなかった。
家に帰ってからも、診断の紙をじっと見つめながら、ぼんやりと考えていた。
会社での仕事に、不満はなかった。
整備も、開発も、知財の仕事も、それぞれにやりがいがあったし、
それなりの成果も出してきたつもりだった。
だからこそ、「やり切った」という感覚もある。
そして、“やり切ったあと”の自分が、
もう一度“同じ型”には戻れないような気もしていた。
気づけば、自分自身をずっと「外から見る訓練」ばかりしてきたのかもしれない。
肩書きで語る自分、職務経歴書で説明できる自分。
それがなくなったとき、何が残るんだろう。
もしかしたら、これからは“視点を変えて自分を見る”ことが必要なのかもしれない。
役割ではなく、価値観の手触りで。
数字や点数ではなく、「何にひっかかりを覚えるか」で。
平均値の紙を握りしめながら、
私はようやく、自分の言葉で“何かを語り直すこと”のスタートラインに立った気がした。
📌 次回予告: 第3話|“やったことがないこと”が、自分をよく映す鏡だった
副業は「稼ぐこと」より「自分を棚卸すこと」だった。経験を手放しすぎず、あらためて触れてみた日々の話。
第3話|“やったことがないこと”が、自分をよく映す鏡だった
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