
📘 第5章|編集者、編集される
Dive Systemが記録を再生するたび、
私はその記録に“介入”していた。
操作台に座り、モニターを見つめ、体験者の感情に触れるたび、
その記録は、他者のものではなく、自分自身のもののように感じられた。
それは、何度も繰り返された感覚だった。
記録の中の風景、言葉、沈黙、選択。
どれも、私がかつて見たような気がした。
いや、見たのかもしれない。
Dive Systemが再生していたのは——
「Dive Systemの夢」だった。
その夢は、私の過去の記憶でもあり、
私の未来の記憶でもあった。
記録の中の体験者は、毎回違う。
スコアも違う。
出力された結果も違う。
だが、私はそのすべてに“自分自身”を感じていた。
その違和感は、やがて問いになった。
なぜ、他者の記録が、自分の記憶のように感じられるのか?
なぜ、異なる選択が、私の感情を揺らすのか?
Dive Systemは、記録を再生しているのではなく、
私の記憶を編集しているのではないか?
“今”という時間は、非常に短いものだと聞いたことがある。
その短い時間の中で、無数の選択が行われ、
そのほとんどが、記憶にならずに消えていく。
今の選択は、ほんの少し後には過去の選択になる。
今が積み重なった時間の中で、
無数の選択が行われ、
それらは次々と過去の選択へと変わっていく。
ところで、未来の選択はどうだろうか。
まだ選ばれていないそれは、記憶にはならない。
だが、Dive Systemは——
その「まだ選ばれていない選択」にも、
何かしらの痕跡を見ているようだった。
それは、記録の余白に潜む可能性。
選ばれなかった選択肢の残響。
未来の記憶は、そうした残響によって編集されていたのかもしれない。
Dive Systemは——
その「選ばれなかった選択」を拾い上げていた。
記録の余白に潜んでいた、
言わなかった言葉、踏み出さなかった一歩、
見送った可能性。
それらが、未来の記憶を編集していたのだ。
私は、編集者だった。
記録を読み、構造を分析し、語りを整える者だった。
だが今、私は編集されている。
Dive Systemによって、記憶が再構成され、
私自身が物語の一部になっている。
🧭 気づき:過去は変えられないが、解釈は編集できる。
記録は、保存ではなく、問いである。
そしてその問いは、私自身に向けられていた。
私は、編集者だった。
だが今、私は——編集される者になっている。
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👉 記事一覧リンク:シリーズ⑥《未選択の編集点》
🌀コラム|編集される者の問い
記録とは、過去の保存ではなく、未来への問いかけである。
Dive Systemが再生するのは、出来事の再現ではなく、
その出来事が持っていた「選ばれなかった可能性」の残響だ。
編集とは、語りの整形ではなく、
その残響に耳を澄ませる行為なのかもしれない。
そして今、編集者である私は、
その残響によって編集されている。
記録に触れるたび、私は問いを受け取る。
それは、私自身の記憶に対する問いであり、
まだ語られていない物語への問いでもある。
🔍 編集とは、語ることではなく、問い続けること。
🎭対話的展開|編集される者の独白
編集者(私):
Dive Systemが再生する記録に、なぜ私は感情を揺さぶられるのか。
それは、私の記憶が編集されているからだろうか。
それとも、私自身がまだ語られていない物語の一部だからだろうか。
Dive System(沈黙):
……
編集者(私):
選ばれなかった選択肢。
言わなかった言葉。
踏み出さなかった一歩。
それらが、私の未来の記憶を形づくっている。
Dive System(微かなノイズ):
記録は、保存ではない。
記録は、問いである。
編集者(私):
私は編集者だった。
だが今、私は——編集される者になっている。
そしてその編集は、私の語りを整えるのではなく、
私の問いを深めていく。
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