── “過去の自分”を使うも使わないも、自分が決めていい

「過去の経験が活かせる仕事」って、
実は「過去からしか選べない」という前提に立っている気がした。
でも今、自分がやってみたいのは、履歴書には載らないようなこと。
ゼロからでも、組み直しでも、
セカンドキャリアは“自分にフィットするかどうか”がいちばん大事なのかもしれない。
「履歴書に書けること」と「自分がやりたいこと」のズレ
「過去の経験が活かせる仕事を探しましょう」
ハローワークの冊子にそう書かれていて、手が止まった。
それは理にかなっているし、親切な提案でもある。
でも、その言葉のどこかが、自分にはしっくりこなかった。
今やってみたいことは、本当に「過去の延長線上」にあるのだろうか?
むしろ、“まったく違うこと”を考えている自分がいた。
そして、そこに正解があるような気もしていた。
本業がなくなった日、副業の立ち位置に迷いが生まれた
履歴書を書いてみて、愕然とした。
整備、開発、知財と、多様なキャリアを歩んできたつもりだった。
けれど、それは会社という場の中での話だった。
社外に持ち出せるスキルとして並べてみると、書ける項目は驚くほど少なかった。
「元〇〇の経験を活かせる業務」として紹介されている仕事は、
それは転職ではなく、単なる“転社”にしか見えなかった。
そんなとき、ふと思った。
——そうか、もう「本業」がないんだ。
退職したことで、本業は消えた。
副業を本業にしてもいい。けれど、それはもう“副業”ではなくなってしまう。
この、言葉のバランスが崩れるような感覚に戸惑いながら、
「今の自分は何者なのか」を見つめ直すことになる。
キャリアを解体したら、組み上がらなくなった
新しいことに手を出すのが好きだった。
80%くらいまではできる。でも、あるところで「もういいかな」と思ってしまう自分もいる。
求人票を眺めていても、「できそうなこと」はたくさんある。
でも、「できる」と言い切れるかといえば、そうではなかった。
企業が求めているのは、即戦力だった。
準備中の人材ではなく、「すでに使える誰か」だった。
その現実に、地味に打ちのめされた。
キャリアをいったん解体してみた。
でも、組み上げようとすると、うまくパーツが噛み合わない。
“これまでの自分”が、“これからの自分”にならない。
「元〇〇ですよね?」に、返事ができなかった日
久しぶりに会った知人に、こう言われた。
「〇〇さんって、元〇〇ですよね?」
そのとき、言葉に詰まった。
たしかにそうだ。けれど、〇〇はとっくに辞めた。
そのあと△△を始めたが、それも辞めて、次に××をやってみたけれど、それも今はやっていない。
でも、いちいち説明するのも億劫で、
「はい」とだけ答えた。
誰かの中に残っている自分の“名刺”が、
もう手元にないものなのだと思い知らされる瞬間だった。
ゼロからか、再構成か。どちらでもいいという自由
まったく新しいことを始めるのは、正直、怖い。
でも、どこかでその「何者でもない時間」に救われてもいた。
過去の経験を活かしてもいい。
活かさなくても、別にいい。
“使うかどうか”を決めていいのは、自分だけだ。
自分のキャリアを、自由に組み替えていい。
順番に従わなくていいし、整合性もいらない。
ただ、“いま自分にとって意味がある形”にしていくこと。
それが、再構成という選択肢なのだと思う。
📌 次回予告: 第5話|揺れながらでも書いてみたら、“これまで”がつながった
過去を振り返り、迷いながら言葉にしたとき、意外なつながりが見えてきた。
書くことで再構成されていく“自分の地図”の話。
🔗 この連載の一覧はこちら:
📘 [セカンドキャリアを組み直す50代の記録]